SEMINAR REPORT

「看護管理者のためのモチベーション管理講座」WEBセミナーの動画はこちら

「看護管理者のためのモチベーション管理講座」WEBセミナーを開催しました

2021年7月13日、クラシコ主催のWEBセミナー「看護マネジメントサマーセミナー2021」が開かれました。看護師長・主任など看護管理者層にあたる看護師に向けた講座の第二弾です。

優秀な看護師人材の確保は管理職にとって重要な仕事。しかし「いくら採用してもすぐに辞めてしまう」「熱意を持って指導しても部下にやる気が見られない」など、解決が難しい悩みを抱えている人は多いでしょう。

そこで今回は看護師の「離職予防編」と題し、数々の病院のコンサルティングを行う永瀬隆之氏がオンラインで講演。どのようにスタッフのモチベーションを上げ、勤務の継続につなげていくべきなのか、そのヒントをセミナーのレポートでお届けします。

Profile

永瀬隆之

フェアアンドイノベーション 代表取締役
日本医業経営コンサルタント協会 認定コンサルタント
東京都医療勤務環境改善支援センター 医業経営アドバイザー

永瀬隆之
  • これまでの実績

    管理職層のリーダーシップ改革など、組織風土やモチベーションの課題解決
    100~500床前後の総合病院における看護師の離職防止で実績多数

  • 最近の講演・執筆活動

    ◎兵庫県・愛知県・京都府・滋賀県・長野県・神奈川県・栃木県・山形県・奈良県看護協会、国立病院機構本部、日本医療福祉生協、JA長野厚生連本部、愛知県・兵庫県・静岡県東部・神奈川県・大阪府・長崎県看護部長研修会、日本看護職副院長連絡協議会、日本看護管理学会学術集会、日本赤十字本部 等
    ◎第22回日本医業経営コンサルタント学会東京大会の発表論文は最優秀賞を受賞(2019年)
    ◎メヂカルフレンド社「リテンション・マネジメントの実践:病院ブランドを高める看護組織の つくり方」2016年6月発刊

看護師の職員満足度が高くても、必ずしも人材の定着にはつながらない

永瀬さんがある病院で行った看護師の意識調査では「ワークライフバランスのよさが特定の部署や人に偏っている」「非管理者のベテラン層に、辞めないけど頑張らないという『ぶら下がり』が増えている」など、スタッフの様々な声が聞かれたそう。

そのような意見が事実かどうか確認するために活用できるのが「職員満足度調査」。しかし、質問項目に問題があることで十分な効果を得られないケースが多いようです。ある病院の調査を例を出して、次のように説明します。

「この設問を見て少し考えていただきたいのですが、”職場での人間関係や雰囲気は良好ですか?”など、環境や相手との関係性に関するものばかりですよね。自分自身が仕事にどう向き合っているかという『職務満足感』を聞いているものは、1問ほどしか入っていません。

周囲の環境がよくても、仕事そのものに関心を持って生き生きと働いていなければ、キャリア形成には結びつきません。つまり看護師の『満足度』ではなく、『活力度』を調査しなければいけないということです」

できる看護師を離職させない、“リテンション・マネジメント”のすすめ

永瀬さんが看護師スタッフ一人ひとりのキャリア形成のために導入すべきとしているのが、“リテンション・マネジメント”という考え方。活力度の重要性を理解した上で、正しい施策を打ち出す必要があると述べます。

「リテンションとは“職員を組織内に確保して勤続期間を長期化する”という専門用語です。そしてリテンション・マネジメントとは、採用・育成施策を通じてできる人材を定着させる目標達成を図ることを指します。

優秀な人材がいなくなってしまうことが最も大きな損失ですので、その人たちができる限り気持ちよく働けて、キャリアも形成できるようにしなければいけません。そのために、まずは先ほど述べた活力度を分析してみましょう。

こちらはある2つの病院の活力度の分析結果を比較したものです。縦軸は帰属意識の高さを表していて、横軸は右にいけばいくほどチームワークを大切にする協働型、左にいくほど自己完結型です。帰属意識が低い上に自己完結型というゾーンに入っている方は、離職予備軍ということになります」

そして、分析を行うだけでなく、その結果をふまえて適切な改善方法が見えていることが大切。行うべき施策として、業務整理・リフレクション・理念浸透の3つを挙げます。

「たとえば『互いに尊重し、信頼し、学習し合いながあら協働するためには?』という課題が出てきたときに、時間管理中心のワークライフバランス推進をしてしまうのはよくありません。経験が浅い人は早く帰れるかもしれませんが、その分優秀な人に仕事が集中してしまいます。ですのでポイントは『できる人に仕事が集中しない業務分担か』であり、行うべきは業務整理だとわかります。

そして次は『スタッフの成長と患者満足が結びつくか?』という視点で見てみます。成長してもらうことを意識すると、どうしても多くの仕事を与えてしまいがちです。しかし満足度ではなく活力度と説明したように、自分から興味関心を抱いて取り組んでいるという“内発性モチベーション”が重要なんです。

そこで管理職は、部下の内発性を引き出すために『リフレクション』を促してください。リフレクションとは、しっかりと内省し次回に生かしていくこと。それを行うことで、スタッフがモチベーションを持って仕事に取り組むようになり、患者の満足度にもつながっていきます。

最後に『管理職のモチベーションが高く、よきメンターになるためには?』という課題はどうでしょうか。『仕事ができる人』が管理職になる傾向があるかもしれませんが、今後求められるのは部署のビジョンを明確に示せるトップです。管理職には理念の浸透や実践の動きが必要不可欠であるという、より具体的な道筋が見えてきます」

間違った業務整理に注意。まずは看護管理者自身の仕事を見直す

書類の山の前でデスクワークする看護師

永瀬さんによると、前述の3つの項目の中で特に気をつけて実践すべきというのが業務整理。業務整理には、優先順位を正しく判断する、役割分担・意思疎通を的確に行う、素早く情報を処理するなどの「段取り力」が必須と説明した上で、次のように続けます。

「業務整理と言われると、スタッフ一人ひとりの業務量を分析する方が多いと思います。しかし実は、その前に『管理職の仕事の棚卸し』をする必要があるんです。

通常のスタッフの場合は、他人と共同で行う仕事が8割、一人で行う仕事が2割程度なのですが、管理職になるとこれが6:4ほどに変わってきます。自分にしかできない属人的な仕事が増えるということですね。

そして、それらの仕事は一人でできるのでついつい後回しになります。そうすると残業が続いたり、家に仕事を持ち帰ったりしてしまいますよね。それは魅力的な上司と言えず、後に続いていくべき部下が、管理職というポジションに悪いイメージを持ってしまう場合もあります」

さらに、一人で行う仕事はほとんどが可視化やパターン化がしづらい「非定型業務」であることも理解しておくべきと語ります。

「看護管理者の業務はほとんどブラックボックスなんです。わかりやすく言うと、一般的な看護師の仕事は見ればすぐに何をしているかわかりますよね。一方で事務職の場合そうではない、つまりデスクワークは仕事内容がわかりづらいんです。わからない仕事はメスが入らず、業務改善の対象になりにくいと。

でも、このメスが入らないところに問題があることがほとんどなんです。分析をして、たとえば『管理者なのにスタッフの仕事をたくさんやってしまっている』とわかれば、そのせいで部下が育たず、結果的に一部にしわ寄せが行っていると気づく場合もあります。

段取り力が必須と言いましたが、それは部下だけの話ではありません。まずはご自身のスケジュールを見直して、一人で行う非定型業務をいかに1日の予定に組み込むかがポイントです」

患者満足の向上に必要なモチベーションとは?

患者さんに優しく語りかける女性看護師のイラスト

職員満足度が必ずしもスタッフの定着につながるわけではないのと同様に、患者満足度にも直結しない可能性があるそう。“ハーズバーグの二要因理論”を挙げて、課題解決の際の考え方を説明しました。

「ここでは“衛生要因”と“動機づけ要因”という2つの要因が挙げられています。衛生要因は不満足を生んでいる要因のことで、組織の方針・労働条件など周囲の環境がそれにあたります。一方動機づけ要因は満足を生んでいる要因を指し、仕事の達成感・能力の向上など、内発的なモチベーションにつながるものです。

仕事の質を上げていくためには、後者を高めなければいけないんですね。衛生要因を減らすことももちろん必要ですが、これは周囲の病院と同じレベルで構いません。

職員満足度調査の説明でも触れた通り、衛生要因の方に質問が多くないか見直してみてください。動機づけ要因を増やさないと、患者満足や生産性の向上に結びつくような仕事にはなりません。衛生要因はほぼすべて外発的なモチベーションなので、こればかりに依存していると“やらされ感”が強くなってしまいます」

また、部下のモチベーションを上げるためには「目標のブレイクダウン」も必要と語ります。目標のブレイクダウンとは、大きな目標を個人が実行できるレベルの目標まで落とし込むこと。それを行うことで、部下の成長欲求を刺激できます。

「まずは病院・看護部・病棟などが掲げている目標を確認してください。次にキャリアの視点から、中長期〜短期における個人の目標がこれで、来年ここに持っていくために今年はここまで必要と逆算する。最後は具体的な業務の視点まで落とし、その人が今できていることをどのようにレベルアップするか考え、伝えてほしいということです。それによってキャリアイメージが描けるんですね。

コロナの対応もあり、現場の看護師は目先のことでいっぱいいっぱいになっています。ですので、今やっている業務が将来こんなことにつながっていくというイメージを持ってもらう必要があるでしょう」

病院のブランド力を高める組織の作り方

患者さんも地域の方々も集まる『マグネット・ホスピタル』のイメージ

最後に、病院のブランド価値を高める方法について解説。これからのマネジメントを考える際は、現代の日本が抱える問題も押さえておく必要があります。

「重要なのは、自分の言葉でビジョンを示すことです。以前はカリスマドクターが一人いれば患者が来たかもしれませんが、今の時代、地域住民・患者・その家族は働く職員のことを見ています。

さらに、急速な少子高齢化に伴って、今後は治す医療ではなくいかにQOLを上げるかが求められてきます。そこではまさに看護師が核になる、つまりブランドイメージはみなさんが作り上げるということなんですね。そのために、管理者同士で『この病院の独自性は何か』ということを深く考える機会を設けるべきだと思います」

そしてやはり欠かせないのが、調査や分析の結果を次のアクションにつなげていくこと。管理職の看護師が目指すべきゴールについて、次のように続けます。

「管理者がビジョンを理解・発信することはもちろん重要ですが、その上でそれぞれが取り組むべき具体的な行動を、スタッフにきちんと伝えなければ意味がありません。職員と対話をして、自分は管理者としてどんな支援ができるのかを示し、最後は病院全体で取り組むべきことを提示する。

このように三位一体となって改善を進め、患者さんも地域の方々も集まる『マグネット・ホスピタル』を目指していただきたいですね」

患者との関わりが非常に多い看護師にとって、病院全体の改善に貢献することは決して難しくありません。看護師への評価がブランドイメージに直結することをうまく活用し、部下のお手本になれる上司を目指すべきと言えます。

参加者からの質疑応答

今回のセミナーも、開催中に参加者から多くの質問を受け付けました。その一部をご紹介します。


参加者:ぶら下がりのスタッフに様々な仕掛けをするのですが、なかなか変化が見られません。どうしたらいいでしょうか。

永瀬さん:ぶら下がりには2種類あります。まずは若手、経験の浅い方のぶら下がりですね。この場合大概は放置されているので、先輩や上司としっかりと関わりを持てるようにしていただきたいところです。

一方対応が難しいのが、中堅・ベテラン層のぶら下がりですね。ここで苦しんでいる看護部さんは非常に多いです。

なぜなら、この方たちは自分の仕事はきっちりやるんです。でも終わったらすぐ帰ると。
こういったぶら下がり層は、手順・マニュアル・ルールへの興味関心は高く、それをモチベーションのもとにしている場合が多くあります。

ですので「あなたがやっていることは抜け漏れのない仕事で素晴らしいので、可視化して後輩指導に役立ててほしい」と伝えてみてください。その人の得意分野を見出して、それを部署に全体に生かせないだろうかとぜひ話し合っていただきたいです。

参加者:上司・部下を問わず、突発的に依頼される仕事にはどこまで対応したらいいでしょうか。全部引き受けたら業務量が膨大になってしまいます。

永瀬さん:突然頼まれたからといって、必ずしもすぐにやらなければいけないわけではありません。まず確認すべきはその仕事の対応をいつまでにしてもらいたいのか、依頼してきた人がしっかりと把握しているかどうかです。

さらに、それは本当に自分がやるべきものなのかという点も確認してください。専門的な知識が必要だったり、違う部署のサポートが必要だったりする場合もありますよね。急に声をかけられると急いで判断してしまうので、自分が今すぐやらなきゃと思いがちなのですが、何でも引き受けてしまわないよう注意してください。

また、突発的な依頼が非常に多かったら、一度書き出してみるといいと思います。依頼してくる相手や、発生する曜日・時間など、パターンが見えてくるかもしれません。パターンが見えると予想ができるので、その時点で「突発」ではなくなりますよね。

まとめ

世の中の状況に合わせて、医療現場の看護管理職に求められるスキルや心構えは変化していきます。先を見据えたマネジメントを行って優秀な人材を定着させ、よりよい病院を目指していくことが求められるでしょう。

今回の参加者からは「痛いところを突かれた講演だった」「看護管理職として、今後の方針が明確化された」「とてもわかりやすく、なぜ?という疑問が解決した」などの感想が挙がりました。ぜひみなさんも実践し、質の高い組織作りにつなげてください。

クラシコナースの公式Twitterはこちら

セミナー開催・レポート・コラム更新情報など随時発信中です!

お問い合わせ

電話でのお問い合わせ(導入相談窓口)

0120-970-049

受付:平日の10:00~18:00

メールでのお問い合わせ

休日、夜間のお問い合わせへのご対応につきましては、翌営業日に順次ご対応します。

PC

オンライン相談も
受付中

導入コンサルタントが
ご要望に沿ったプランをご提案。
お気軽にお問い合わせください。
詳細・予約はこちら