PEOPLE WHO WEAR A LAB COAT 白衣を身に纏ったプロフェッショナル達のストーリー

Story

上尾中央総合病院 心臓血管センター長

手取屋 岳夫

自分にしかできないことを求めると、

歪みが生まれる

元昭和大学医学部外科学講座胸部心臓血管外科の主任教授であり、現在は上尾中央総合病院の現場で日々、緊急・准緊急を含む心臓外科領域の手術を担当する、手取屋岳夫先生にお話を伺います。

手取屋先生が医師として持ち続けている“こだわり”を教えていただけますか?

私はむしろ、“普通である”ことをすごく大事にしたいと思っているんです。特別性がない状態のことですね。

それは、医師という職業が特別だからですか?

というより、どういう仕事でも、質のいい“普通”を提供し続けるのはなかなか難しいことだからです。特別というのは、特別を目指してできるものではなくて、質のいい“普通”の状態を維持した日常の中で、ようやく発見できるものでしょう。そう思っていつも質のいい“普通”を目指してはいるのですが、なかなか上手く行きませんね(笑)。

“普通”の質を高めるために、どんなことをしていますか?

常に謙虚に、自分がやっていることを見直すようにしています。謙虚であるということは、特別だと思われがちな僕たち医師にとってとても大事であり、難しいことですから。そのためにいつも格闘している感じですね。

一方で、外科医は自分の腕が頼りだと思います。謙虚であることと自信を持つことは、両立できるのでしょうか?

やはり、自分の現状を適切に把握することに尽きますね。他の人と比べて、何ができていて何ができていないのかがわかっていれば、過度に自信を持つことも失うこともないと思いますので。外科手術というのは、僕ができることを僕以外もできるのが当たり前なんです。逆に、自分にしかできないことを求めてしまうとどこかで歪みが生まれます。

僕たちは芸術家ではありません。一つひとつの技術にこだわりがあっても、それは自信という形で表に出すようなものではなくできて当たり前、つまり“普通”なんですよ。手術と呼ばれるものは、手術書に手順が書かれていて、再現性があり、専門教育を受けた人間がその通りにやれば7〜8割の成功が確立されている技術です。自分一人にしかできないことは、ただのマジックになってしまうでしょう。

手取屋先生が“普通”と仰っていた意味がよくわかりました。

医療というのはそういうものだと思います。ただし、僕たちが相手にする人間というのは本当に十人十色ですから、それでも質の高い“普通”を目指すのは大変です。

非常に客観的というか、冷静な視点をお持ちですよね。

メディアは外科医を“神の手”みたいに表現したがりますが、 “神の手”を自称している医師はいないはずです。基本的には、みなさん同じように考えていらっしゃると思いますよ。

技術の標準化の先には、ロボット手術などの最先端医療があります。 手取屋先生はロボットが医師の仕事を代替することについて、どのように考えますか?

基本的にポジティブに受け止めています。人間の目や手には限界がありますし、テクノロジーが進化することで、自分たちの技術がさらに応用できることも起こり得ますよね。もしかすると、僕のような外科医の商売は消えてしまうかもしれませんが、それは仕方のないことです。この仕事のゴールがどこにあるかといえば、患者さんの役に立つことなので。

そうなったらそうなったで、医科学者が必要とされる別のことをすればいい。そこにどれくらい僕たちが生き残る道があるかは、自分たちの努力次第ですから。僕たちの仕事がリプレイスされる可能性はもちろんありますが、あくまでそれは可能性であって、危険性と捉えてはいけないんです。僕たちが社会に与えられた特権を盾に社会の進化を阻んでしまったら、社会自体がシュリンクしてしまう。本末転倒ですよね。

医師は特別な仕事ではなく、ロボットが代替する可能性もある。それでも手取屋先生が医師であるのはどうしてですか?

そもそも、僕たちがやっていることが社会の役に立っているかといわれると、それもまた怪しいんですよね(笑)。命を永らえさせることが本当にいいことなのか、誰もわかりません。ただ、患者さんは心臓にメスを入れるために、僕たちの目の前に体を投げ出している。この勇気はものすごいことだと思うんです。その勇気に最大限報いたいという気持ちが一番強いのかもしれません。

ここまで仕事に向き合う姿勢についてお聞きしてきましたが、白衣についてはいかがでしょうか?

実は、僕はいわゆる白衣というのはあんまり着ていないんですよね(笑)。

手術着が多いということですか?

はい、そうです。30年間外科系なので、入局のプレゼントもいわゆるスクラブだったくらいで。今でも院内ではほとんど手術着を着ていますね。手術室にいる方が落ち着くほどです。

ただ、やっぱり医師は身なりにも気を使うべきだと思います。以前留学していたイギリスでは、外科医というのが特別な職業で、きっちりジャケットを着て診察していました。同じように、患者さんに清潔な印象を与えるためには、日本であれば白衣を着用した方がいいでしょう。

それに、うちは病院としてクラシコの白衣を導入していますよね。そうやってチームアイデンティティを育むのも、白衣の役割だと思います。

手取屋 岳夫医師 Takeo Tedoriya

1987年金沢大学医学部卒業、1992年同大学大学院医学系研究科修了。金沢大学第一外科をはじめ、約8年半日本で心臓血管外科に携わる。ドイツのベルリン心臓センターとオーストラリアのSt.Vincent’s Hospital Sydneyへ留学後、昭和大学主任教授を務め、退任後は上尾中央総合病院心臓血管センター長として診療顧問を務め最新治療法を積極的に採用している。

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