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第2回 白衣メーカー、無謀にも聴診器をつくる。

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「は?本気なの?」まさに会議室に並んだ一同がそんな顔で見ていたのを覚えている。

場所は、埼玉県本庄市にある聴診器メーカー「ケンツメディコ社」の会議室。
同社の開発担当者、工場長、営業責任者など関係者が勢揃いの前でクラシコの聴診器のアイディアとデザインプレゼンをした。それを聞いたときの顔がまさにそんな表情だった。

ケンツメディコ社は、1991年創業の医療機器メーカーで創業時より聴診器や血圧計を製造し、今では国内でも高品質の聴診器を製造できる数少ないメーカーである。

クラシコの聴診器のアイディアを思いついてから業界に詳しい方に相談した際に、真っ先にこの会社さんを紹介していただき、プレゼンに至った。

聞くと、いろいろな会社から、自分たちのオリジナル医療機器を一緒に製造してほしいというオーダーは来ているという。しかし、大概は既存の商品の一部の色や素材を変えたものばかりで、ここまでゼロベースから作ってほしいという会社は無いという。しかも、それが白衣メーカーからの提案だから余計に驚いたらしい。

耳が痛くなる!?

話は戻って聴診器の着想後、クラシコのお客さまのドクターに今までの聴診器についてのヒアリングをしている時、よく聞いた言葉がこれ。「1日中つけていると耳が痛くなる。」

特に、聴診器をもっとも重宝する循環器や呼吸器系のドクターからは何度も聞いた言葉だ。
従来の聴診器は、音漏れを少なくし、しっかり聞けるようにするためにできる限り耳に強くフィットさせていた。そのため耳に挟む圧力をつくりだすバネ部分が非常に強いつくりになっている。

1日中つけるような方にとっては、それがかなりの苦痛になっている場合も多いという話を聞いた。

毎日肌身離さず使う道具。だからこそ「こういうものだから、しょうがない」という小さなあきらめを解決したいと強く思ったのだ。

今回、新しい聴診器でチャレンジしたことは、耳にフィットして音質を保ちながらも、一般の聴診器と比較して耳の強い圧力を約30%軽減すること。いかに長時間使っても心地よい体験を生み出せるかにとことんこだわった。
独自開発した流線型の形状と、耳管とチューブがつながるT字部分。その内部にあるバネ部分の形状や厚さの最適化。焼き入れの温度は、300度、350度さまざまなパターンを何度も何度も試行錯誤をした。絶妙なつけ心地を愚直に目指したのだ。

一方で音質を高めるために、ダイヤフラムからイヤーピースまでの空気を逃さない設計を行い、音の減衰を抑えることにも成功した。

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ポケットを大きくするか、聴診器を小さくするか

さらに、若手のドクターからのコメントで多かったのは、持ち運びの利便性。
聴診器はゴムの弾性が強く、あの長いチューブをぐにゃぐにゃまとめて白衣のポケットに入れようとするとどうしてもかさばる。動き回りながら必要なときにパっと使うには、どうしてもそこがネックとなる。

クラシコへの今まで多かった要望は、「白衣のポケットを大きくして欲しい」という意見。

ポケットを大きくするか、聴診器を小さくするか。

そこで生まれた発想が真ん中で「折りたたむ」という構造。T字部分を軸に気持ちのいいスムーズな動きで聴診器を折りたたむことができたら。ぎゅっと握れば一般の聴診器よりもずっとコンパクトになり、ポケット内でストレスなく収めることができる。

しかし、言うは易く行うは難し。T字部分は四苦八苦した。空気漏れをいかに起きない精度でだすか。回転をさせながらも空気を漏らさない緻密な設計。部品が小さいから余計に難しい。試作は外部にだすだけでなく、細かい修正は開発の村上さんが職人技の手作業で自分で削って何度も何度も作り直してくれた。

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そんな試行錯誤から生まれた機能が、美しいデザインとなり、使うプロフェッショナルへの敬意という付加価値を持った新しい聴診器として形になろうとしてきたのである。


※次回2月2日掲載分に続く。

次の記事:第3回 「誰にとってもマイ・聴診器に」のこだわりから生まれた美しいデザイン。

前の記事:第1回 なぜ聴診器は常にこのカタチなのか?



開発秘話公開スケジュール:
1/21 予告編 Classicoから、常識を超える聴診器。2/9登場。
1/26 第1回 なぜ聴診器は常にこのカタチなのか?
1/28 第2回 白衣メーカー、無謀にも聴診器をつくる。
2/2   第3回 「誰にとってもマイ・聴診器に」のこだわりから生まれた美しいデザイン。
2/5   最終回 工場長のつぶやき。「俺、これ完成したら、自分用にひとつ欲しい」